鳥取大学創立70周年記念事業を応援する企画

第3回 暑く厳しい空の下稲を守る様子をレポート

〜刈取までの管理作業/紙マルチによる抑草効果/学生さんによる研究/見守る人々の声〜

2018.10UPTOTTORI UNIVERSITY / YAMANE BREWERY CO., LTD.
MITSUBISHI MAHINDRA AGRICULTURAL MACHINERY CO.,LTD.

例年にない酷暑の中で稲を守る

刈取までの管理作業

幻と言われた「強力米」を現代の農法で農薬や化学肥料を使わずに育てる。その作業は一つ一つがまさに実験であり、最適なレシピを探求していく未来に繋がる挑戦です。ここでは 5/28 に学生の皆さんと行った田植え以降に行われた管理作業のレポートをお送りします。

PROCESS 1 <湛水管理>

田植え後はすぐに田んぼに水を入れて管理をします。しっかりと水を張って管理することで、根付きと分けつを促し、再生紙を水で押さえて飛ばないようにします。稲の育成には水の管理が欠かせません。

PROCESS 2 <中干し> 7/4 実施

田植えから1ヶ月たった頃を目安に、1 ~ 2週間田んぼに水を入れずに乾かします。収穫するときに目標とする一株当たりの本数は25~26本なので、目標の8割程度の本数になっていることを確認して中干しを始めます。この中干しを行うことで無駄な分けつ(茎が増えること)を抑えて有効茎(穂になる茎)をしっかりと残 すことができます。そのまま水をためておくと分けつが進み、茎が細く弱々しい穂が出てきやすいので、中干しすることによって分けつを抑え、ムダな茎も枯らし、根に酸素を入れて有効茎をしっかり確保します。中干 しの期間中には溝切の作業なども行います。

PROCESS 3 <溝切り> 7/9 実施

水はけをよくして田んぼを乾かしやすくします。乾きやすいのでコンバインで刈取するときに直前の雨があっても対応しやすくなります。

PROCESS 4 <走水> 中干しを初めて 1-2 週間後

しっかりと中干しができたら、再び湛水管理を行います。最初は走水といって水を入れるのですが、すぐに全部抜いてしまいます。一気に水をやると根腐れを起こすこともあるので、走水を入れてすぐ抜いて、次の日また入れて、抜いてという作業を行います。2回走水をしてから、中干し前の湛水管理に戻します。

PROCESS 5 <畦草の管理(草刈り)> 2~3週間に1回程度

畦に雑草が生えていると雑草の種が田んぼに落ちたり、根が伸びたりして田んぼの中まで雑草が生えてくるので、大きくなる前に除草作業を行います。今回の強力のように農薬も使用しない場合は、特に病気もつきやすい ので、それを防ぐために除草して風通しをよくすることが重要です。また、カメムシの被害を抑えるためにも除草は重要な作業です。稲に穂が出るとカメムシが寄ってきます。基本的に雑草の方が稲より早く穂が出るので、始めに雑草にカメムシがつきますが、雑草についているとそのまま稲に移りやすくなります。そのため、本来はずっと雑草がないのが理想ですが、特に出穂期には雑草を短くしておく必要があります。
その他にも...
田んぼの周りに生息するイタチ、もぐら、カエル、かに、カメなど色々な動物が、畦に穴をあけてしまうこともあります。畦に穴が開くと水が抜けていってしまうので、気づいたタイミングで穴を埋めてやります。このように田植えから刈取りまでの時期は田んぼや水路の水を見たり、除草作業を行ったり、稲の葉の生育状況の確認など、細かな作業も沢山あります。

再生紙マルチによる抑草効果

紙マルチを敷設した田面
紙マルチ使用
紙マルチ不使用

再生紙マルチシートの抑草効果

再生紙マルチシートを使うか使わないかで雑草の生え方は全く違います。(右の2枚の写真は植付から43日後の比較)
無農薬でお米を作る上で一番大変なことは除草作業。雑草は土に日が当たることで育つので、稲が伸びる1ヶ月半で土が稲の影に入ってしまえば雑草の生育を抑えることができます。今回行う紙マルチ農法は稲が伸びるまでの時期を紙で田んぼを覆うことで農薬を使わずに除草の手間を大幅に軽減するといった方法で強力を育成しています。

クサネム

キシュウスズメノヒエ

ヒエ

ミズカヤツリ

コナギ

田んぼに生える雑草の一部をご紹介

雑草には沢山の種類が存在しますが、よく見るものをいくつかご紹介します。中でも厄介なのがキシュウスズメノヒエ、芝のような見た目で根が張って増えていきます。草刈機で飛ばすと刈った草からも増えてしまうため手で根っこごとと取ります。

学生さんによる研究

未来のための生育調査

近くの圃場でも学生さんが研究のための作業を行っていました。大学には今回の企画に使っている他にも多くのほ場があり ます。6ブロックに肥料パターンを分けたほ場で、2週間おきに草丈や葉の枚数、葉色などを測定。1週間おきに定点写真も撮影しているそうです。窒素量を変化させ倒れない大きさで、最も多く収穫できる生育方法を研究中。この日はデータ採集の一環で草丈と葉の枚数の測定を丸一日かけて調査していました。

生徒と稲の生長を見守る先生の声

TEACHER INTERVIEW

猛暑の夏、
稲の成長を見守って

鳥取大学農学部附属フィールドサイエンスセンター
技術職員 佐藤 健 さん

ーー今年は大変暑い夏でしたが、特に大変だったことや気を遣ったことはありますか?
お米にとっては出穂した後の高温が良くないといわれているんですが、いわゆる早生のコシヒカリなどは白濁したお米になってしまって、それが等級を下げる原因になるといわれています。暑くて不稔(ふねん)と言って実が入らなくなることもあります。
強力に関しては、幸いというか、遅れ気味に出穂期(しゅっすいき)がきていますので、ちょうどこのまま気温が下がっていく中での出穂なので、そんなに影響もなく育ってくれたらいいなと思っています。いずれにしても初めて作る品種ですので、何とか育ってほしいと思っています。あと心配なのは台風ですね。
今は少しくらい倒れてもまだ出穂したてなので大丈夫かと思いますが、今でも 1 メートルを超えているのでこれからはまずいかなと思っています。湖も近いので、一面大洪水みたいになることもあります。大きな排水路もありますが、それも満杯になって道路にあふれることもありますので、そうなると ほ場も心配です。
ーー他に強力を育てるうえで大変だったことなどありますか?
今のところは特に強力だからと言って困ったことはないです。
当たり前なんですが、播種の際には酒米に他の品種が混ざらないように、学生と一緒に気をつけながら播種を行いました。
ーー今回の企画に対する思いを聞かせてください。
いつもは日本酒はあまり飲む機会がないのですが、今回は携わらせてもらっていますので、どうせならいいのが作りたいです。
失敗できないなってプレッシャーみたいなものもありますが...(笑) 楽しみは楽しみですね。
ーー学生皆さんに対しての思いを聞かせてください。
学生さんの実習ノートを提出してもらっているのですけれども、その中でも皆さん「田植機に乗れたことがすごくいい機会になりました」と、乗ったことがあった子にしても「こんな大きな機械に乗れたのはすごい思い出になります」というのがあったりして、よかったなと思いました。
やっぱり播種から収穫まで学生もできるというのが楽しみにしてもらえているというか、「10 月に入ったら収穫もみんなでするからね」と 伝えていますので、「早く 10月にならないかな」、「楽しみです」というようなコメントもあったりします。
生育調査といって各学生さんが稲の栽培の様子も調べていたりします。自分の担当されているお米についての生長も見てもらって、収穫までできるというのが学生さんにとってもプラスになるところがあると思っています。
「機械に乗れたっ!」という学生のコメントを見る限りプラスになってそうだと感じています。田植機はもちろんですけれども、トラクタや播種機などもそれぞれ機械を操作してもらっていますので。
今回の田植機はやはり紙マルチというとてもレアな機械なこともあり「それに乗せてもらえる」っていうような感覚だと思うんですよね。
特別栽培米や無農薬米についても自分で調べている学生もいて、紙マルチ田植機でよかったと思っています。
ーー今後の抱負をお願いします。
どうしても実習作業はこちらが学生さんにやらせているような感じになりがちなんですけど、そうではなくて、学生さんが自ら考えて、動いて、協力し合って行えるような実習作業にしてあげたいと思っています。
最近よくいわれていますが、アクティブラーニングといって自主的に協働して支え合って自らが学ぶというような実習にできたらいいなと。
やらされているんではなくて、自分から考えて、知恵を使って、やってみて、失敗してもいいので自分で考えながらやりがいをもってやって欲しいです。
(取材:2018.8.21)

SPECIAL INTERVIEW

作る人間の個性で味は変わる

(有)山根酒造場 代表取締役社長
山根正紀さん

山根酒造場では生産者ごとに分けてお酒を製造しています。同じ強力米でも水環境や作り手の人格がお酒の味に出る。
几帳面な方が作ったお米でお酒を作るとキリッとして筋の通った味であったり、大雑把でのんびりした方が作ったお米のお酒は少し味がボヤけていたり(笑)
今回学生さんたちが夏に汗水流して育てたお米からできるお酒がどんな味になるのかとても興味があります。
単に「お米できました、お酒作りました。はいどうぞ」ではなく先生の想いや皆さんの想いなど、色々な人間模様や節目の中でお酒がお役に立てればそんな光栄なことはないと思っています。

私たちはこの記念事業を応援していきます。

次回は実りの秋を迎えての収穫作業の様子をご紹介します。

第1回目は記念酒作成プロジェクトの背景にある 繋がりや思いをお伝えします。
第2回目は田んぼの下準備から田植えまでをレポート。学生の皆さんが汗を流しながら行う
お米づくりの様子をお伝えしていきます。
第3回目は稲を守る様子をレポート再生紙が分解されていく様子や、
田んぼの管理の様子をお伝えします。
第4回目は実りの秋を迎えて収穫の様子をレポート
第5回育てたお米がお酒に!こだわりのお酒づくりを体験
第6回(最終回) 記念酒がついに完成!プロジェクトに携わった人たちの声を紹介
鳥取大学
山根酒造場
紙マルチ田植機で有機米作り! 奥出雲での環境保全型農業

お問い合わせ