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田んぼを守り、日本の米文化を守る”農Tuber”が紙マルチ田植機と共に目指すもの

石を投げれば紙マルチが破れる説!? 野々市の紙マルチ田植機事情に迫る

紙マルチ田植機を活用して高付加価値米を生産

林さんは、チャンネル登録者数約2万5,000人、総再生回数2,200万回を誇る人気YouTubeチャンネル『林さんちのゆかいな米作り』を運営する、人気"農Tuber"だ。

 石川県の農業といえば『米』である。その石川県のほぼ中央に、野々市(ののいち)市はある。人口は約5・2万人、面積は約13㎢と小ぢんまりとした野々市市は、東洋経済『都市データパック』が発表している「住みよさランキング2021」で2年連続全国1位を獲得している。
「住みよさの一因は、間違いなく田んぼです」と語るのは、株式会社林農産の代表取締役の林浩陽さん。
人気YouTubeチャンネル『林さんちのゆかいな米作り』の林さん、といえば、普段YouTubeをご覧になる方ならばピンと来るかも知れない。
 林さんが林農産を設立したのは1988年(昭和63年)だが、林家は代々、野々市市で米を作り続けてきた。林農産では現在、水田46・7ha、大豆3haを12名の従業員で管理している。収穫した米の40%を自社オンラインショップで直販している。直販で米を高値で売ることができるのは紙マルチ田植機のお陰だ、と林さんは語る。紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで雑草の生長を抑制する、三菱農業機械独自の田植機である。
「紙マルチ田植機を使い始めてから20年目になる今年は、4・2haで紙マルチ田植機を使いました。1年目は20aでしたから20年掛けて20倍になりました。無農薬米は、米価の下落に関係なく、直販で確実に高く売れます。当社の収益の柱に成長してくれました」

お米を売るために始めた!?YouTubeで食育

幼稚園・保育園から小中学校まで、幅広い年代の子供達に食育教育を実施している。事務所にはお礼の手紙や感謝状が幾つも飾られている。これが林さんの宝物である。

 「YouTubeチャンネルは食育のために運用しています。普段の動画は1万回くらい再生されますが、食育動画はそこまで伸びません。そこで、みんなが大好きな農業機械の動画を頻繁にあげて、その間に食育動画を混ぜているのです(笑)」
 食育こそが林さんのライフワーク。近隣の幼稚園・保育園・小中学校を回り、多忙な本業の合間を縫って食育講座を開講している。田植えだけでなく、稲刈りから脱穀、食べるところまでを、実習に座学を織り交ぜて教えている。
 「米作りは、この地域の、そして日本の大切な文化です。ところが最近の子供は米についてまったく知らない。興味を持つ以前の問題です。」
 野々市市の住みやすさ=環境の良さの一翼を担っているはずの田んぼが今、急速に姿を消し、宅地化が進んでいる。今はそれで良いだろうが、100年後、200年後、野々市に一体、何が残るのだろうか?
 「私達は今、先祖代々受け継いできた田んぼの恩恵を授かっています。それを次世代に引き継ぐ義務があるのです。そのためには、まずは子供達に田んぼや米について知って欲しいのです」

自身と家族の健康のために農薬を減らした農業を志す

20年前に20aから始めた紙マルチ田植機による米作りだが、今では20倍の4haにまで拡大した。「それでも需要に追い付かない」という程に、農薬を使わない米へのニーズは高い。

 これほどに地域農業と地域そのものの持続可能性に危機感を抱く林さんは、どのようにして紙マルチ田植機と出会ったのだろうか?今振り返ると、先代の時代は農薬まみれの会社だった、と林さんは語る。来る日も来る日も、朝から晩まで農薬を撒き続けた結果、食欲不振に陥り、体調が優れない日々を過ごした。これをキッカケに農薬を使わない農法を模索し始めた。
「紙マルチ田植機を導入したいと社員に伝えたときは、また社長の道楽が始まったか……と白い眼で見られました。当時は紙マルチで高付加価値米を栽培する意味を誰も理解していませんでしたし、そもそも300万円もする高価な田植機ですから、仕方のないことでした。そこを『お試しで』と説き伏せて実演機を借りて始めたのです。もちろん農薬を使わない、あるいは減らす、という栽培は簡単ではありません。土づくりをしないと、すぐに病気が出てしまいます。ですから最初は土づくりに力を入れました。
農薬・除草剤を使わない、あるいは減らす栽培をするなら、今や紙マルチ田植機一択と断言できます。私もそこに辿り着くまでに色々と試行錯誤を繰り返しましたが、他の方法は上手く行きませんでした。当社にとって紙マルチ田植機は救世主です」
林さんが実演機を使い始めた2003年には、石川県内に紙マルチ田植機は1台しかなかったという。当時は米価が高かったから、高付加価値化を目指す必要もなかった。ところがコシヒカリ伝説が崩れて、高付加価値化米を作る必要性が出てきた。そこで一部の農業生産者は、生き残りを賭けて紙マルチ田植機を導入して高付加価値米の栽培を始めたという。また、その紙マルチ田植機の利用拡大を後押ししたのは、安心安全な美味しいお米を求めるお客さまが時代の流れと共に増えている、その「無農薬栽培米」の強い商品力とニーズである。
「林さんの紙マルチ田植機は効果的だ、と実機やYouTubeを見て、多くの人が私に続いてくれました。僕はオープンシェアだから聞かれたら何でも教えちゃう(笑)。今では、この近所だけで5台は紙マルチ田植機が稼働しています。各法人さんが、それぞれ5~数10 haで紙マルチ田植機を使っています。今では石川県では『石を投げたら紙マルチが破れる』というくらいの『紙マルチ銀座』なんです」
ライバルが増えると商売上は大変なのではないか?と聞いてみると、それよりもメリットの方が大きい、と笑顔で教えてくれた。田植え作業中に紙マルチが足りなくなった際に融通し合うといった直接的なメリットがあるだけでなく、情報交換することで栽培技術も年々向上しており、野々市は高付加価値米の一大産地を形成しつつあるのだとか。
食育を通じて地域での米文化継承を行いつつ、紙マルチ田植機を利用した持続可能な高付加価値米作りを行う林さん。その夢はきっと叶う。100年後、200年後も野々市に豊かな田園風景が広がっているはずだ。そこには、今よりももっと多くの紙マルチが敷き詰められているに違いない。

文・川島 礼二郎

  • 幼稚園・保育園から小中学校まで、幅広い年代の子供達に食育教育を実施している。事務所にはお礼の手紙や感謝状が幾つも飾られている。これが林さんの宝物である。

  • 20年前に20aから始めた紙マルチ田植機による米作りだが、今では20倍の4haにまで拡大した。「それでも需要に追い付かない」という程に、農薬を使わない米へのニーズは高い。

  • 野々市は「石を投げれば紙マルチが破れる」というほど紙マルチ田植機が普及している。当地の水田は水持ちが悪い乾田だから除草剤を撒いても効きにくい。そこに紙マルチを敷くと水持ちが向上するのだとか。

  • 8年前には、息子の夢太さんが結婚を機に林農産に合流した。「それまで手を出せていなかったSNSを駆使して、更なる集客を実現してくれました」と林さんはご満悦だ。

  • 20年前に20aから始めた紙マルチ田植機による高付加価値米は、今では林農産の収益の柱へと成長を遂げた。「自社運営のECサイトでJAの3~4倍の価格で販売していますが、それでも毎年品不足になり、お客様に謝っております」

【取材協力】 株式会社林農産

https://www.hayashisanchi.co.jp/

【Youtube】林さんちのゆかいな米作り

https://www.youtube.com/c/HayashisanchiJp23owarai/featured

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環境保全、有機米づくりを強力にバックアップ

今年で発売開始から25周年を迎えた、三菱農業機械の『紙マルチ田植機』。田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで雑草の生長を抑制する。農薬を極力使わない=安心安全な米作り、持続可能な農業をサポートする田植機である。

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