営農情報

付加価値のあるお米と100種類の野菜を家族で生産

有機米+複合経営をサポートする紙マルチ田植機

農薬と化学肥料を極力使わず安心安全な農作物を作り直販する

「紙マルチ田植機で収量を上げるには、健康な苗を植えること、それと堆肥や有機肥料を使い時間を掛けて土作りを行うことが必須です」

 兵庫県の中央東部に位置する丹波市は、北東が京都府と接する盆地である。日本標準時子午線(東経135度線)が通っており、市内の「石生の水分れ(いそうのみわかれ)」は海抜95mであり、これは本州で最も標高の低い中央分水界として知られる。分水界から北側に流れる水は由良川を通じて日本海へ、南側に流れると加古川を通じて瀬戸内海へ注ぐ。食料の大消費地である神戸や大阪、京都から車で1〜2時間と近いため、古くから様々な農作物が生産されてきた。全国区の知名度を誇る丹波黒大豆、丹波大納言小豆、丹波栗は丹波三宝と呼ばれる特産品であり、米、黒ごま、葉物野菜や薬草、それに畜産も行われている。
 丹波市は有機農業の先進地域としても知られている。1970年代には全国に先駆けて、有機農業について農業生産者と都市部の消費者が一緒に考える研究会を発足。
以降、長らく全国の有機農業活動をリードする団体として活動が続いた。自然環境と地域環境、それに歴史的経緯から、現在でも丹波市は有機農業+複合経営が盛んな地域である。

婦木農場では四季を通じて100種類を越える野菜を生産している。消費者グループに届けられるほか、ネット通販やカタログ通販、近くの道の駅などで販売している。

 そんな丹波市で先祖代々農業を営んでいるのが、丹波婦木農場の10代目婦木克則さん。水田7ha、野菜1.5zha、小麦3.5反、豆8反のほか、酪農と養鶏を営む。野菜は年間を通じて約100種類を生産している。自家製農作物を使った加工品として、餅、醤油、味噌、麦茶、チーズ等を生産するほか、農家体感施設「〇−まる−」、宿泊・農業体験・農家カフェも運営している。
「当家は江戸時代から、この丹波の地で農業を営んできました。時代が明治へと進むのに合わせて、当時需要があった養蚕を始め、昭和初期には乳牛を購入して酪農を始めています。お米、野菜といった農作物だけでなく、今でも作っているお餅や醤油などの加工品を作り、近隣の町までリヤカーを引っ張って行き販売していたそうです。
 経営の根幹は農薬も化学肥料を使わない有機米ですが、息子二人の就農を機に事業を拡大、多様化しているんですよ。販売は全て直販しています。先代の時代は米のほか四季折々の野菜を消費者グループに届けることで経営が成り立っていましたが、それだけの規模の消費者グループを維持するのは容易ではありません。辞めてしまう方もいますし、高齢化していきます。
そこで農作物の種類を増やすとともに、食べてくださる方々との顧客接点を作りたいと、2013年に農家体感施設「〇−まる−」をオープンしました」

有機米と多品種の野菜生産を両立する除草いらずの紙マルチ田植機

300羽の鶏が平飼いされている。餌にはくず米が混ぜられており、白味がかった黄身が好評だ。乳牛7頭は自家製WCSで育てている。「すべての生産は米で繋がっているのです」と婦木さんは語る。

 これほどまでに多角化した婦木農場だが、婦木さんご夫妻と二人の息子さん、それに二名の従業員だけで運営しているというから驚きだ。婦木農場はいかにして業務をこなしているのだろうか?
「その秘密は紙マルチ田植機にあります。息子達と妻、従業員は頑張ってくれていますが、さすがに除草に手間が掛かる有機米作りとこれほど多様な業務は、普通にやっていてはこなせません。除草作業が必要になる時期には丹波の名産である黒豆の作業で手いっぱいになる。多岐にわたる作業を行う時間を作るのに、紙マルチ田植機が欠かせないのです」
 紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで田面への日光の通過を遮断して雑草の生長を抑制する、無農薬栽培に貢献するために開発された三菱農業機械独自の田植機である。「みどりの食料システム法」の投資促進税制の対象に認定された名機だ。
「紙マルチ田植機との最初の出会いは学生時代にさかのぼります。紙マルチを研究していた鳥取大学の津野幸人先生から、その存在を聞かされたのです。水稲を無農薬栽培するなら紙マルチ田植機、とインプットされたのでしょうね(笑)。就農してすぐ、仲間を集めて購入しました。今から30年ほど前になります」

「除草に掛ける時間があったら、ほかの作業をしたい。それを実現してくれるのが紙マルチ田植機です。決して安い機械ではありませんが、ウチにとっては無くてはならない存在です」

 現在はご自身で購入した2代目の紙マルチ田植機を使用しているが、その購入代金の一部は消費者グループの方々が支援してくれたのだという。当時の消費者グループの方々の無農薬栽培への意識の高さが伝わる逸話と言えよう。
「安心安全な美味しいお米を食べたければ、消費者も必要な農業機械を農家と一緒に購入サポートしようと考えてくださる方々が支えてくださいました。紙マルチ田植機は田植には手間が掛かりますし、紙マルチ代も掛かります。それでも息子達が農業で自由に挑戦できる環境を作るには、経営的にも紙マルチ田植機による有機米栽培は欠かせません」
 2015年に息子さんお二人が就農すると同時に、平飼い鶏舎を増築して卵の生産量を増やすとともに、乳質の高いジャージー牛も導入。翌年にはチーズ生産を開始した。そして2021年、オールジャパンナチュラルチーズコンテストで婦木農場の「蔵熟成ゴーダ」は見事に最高賞である農林水産大臣賞を受賞した。
「特に、チーズの生産に力を入れているのは長男です。次男は高専で学んだ知識を活かしてネット通販やカタログ作り、そして有機米を使ったおむすびの製造販売を担い、道の駅や大阪の直営店での販売に繋げています。利益を出せる体制を構築して次世代に引き継ぐのが私の役目ですが、目途が立ちつつあります。ただし、お客様に安心安全で美味しい農作物を提供することについては、終わりはありません。これからも丹波産の名に恥じない作物を作り続けていきます」と語ってくれた。
 江戸時代から令和の現在まで続く婦木農場では、これからも農薬を使わない米作りが行われていくに違いない。それを陰から支えているのは、三菱農業機械の紙マルチ田植機である。

文・川島 礼二郎


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環境保全、有機米づくりを強力にバックアップ

今年で発売開始から25周年を迎えた、三菱農業機械の『紙マルチ田植機』。田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで雑草を抑制する。農薬を極力使わない=安心安全な米作りをサポートする「みどりの食料システム法」の投資促進税制の対象となる田植機である。

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