紙マルチ田植機を用いて栽培する 農薬を使わない高付加価値米

紙マルチ田植機+自家製ぼかし肥料で農薬を使わない栽培に挑む

南魚沼で付加価値のある米作りに挑戦している駒形さん。紙マルチ田植機の導入から2年目となる今年は、紙マルチを使用する区画の面積を昨年の3倍に広げた。「規模ではなく、次世代に引き継げる米作りを追求して行きたい」と語ってくれた。

 魚沼産コシヒカリ……言わずと知れた、美味しい米の代名詞だ。しかし、同じ魚沼産コシヒカリであっても、地域や栽培方法により米の味は異なる。魚沼のなかでも、特に美味しい米が穫れると言われる地域が南魚沼だ。新潟県南部の魚沼盆地に位置する南魚沼市は、東には越後三山の一つである八海山などが形づくる越後山脈、西は魚沼丘陵に、そして南には日本百名山に名を連ねる谷川岳をはじめとする名峰に囲まれて形成された魚沼盆地に位置する。盆地平野部の標高は約200mだが、山に向かうにつれて高くなり、1,000mを越える地区もある。そのため大規模区画は少なく、日本中のどこでも見られるような、小ぢんまりした水田が広がっている。
 そんな南魚沼市で、高付加価値米に活路を見出し、挑戦を続けている農業生産者がいる。
国内最高峰の米の食味コンテスト『お米日本一コンテストinしずおか』第16回で入賞を、第17回では見事に最高金賞を受賞した『こまがた農園』の駒形宏伸さん(42歳)だ。
「私は駒形家のちょうど10代目にあたります。私の先祖が当地で農業を始めたのは江戸時代、安永6年(1777年)のことですから、もう240年以上も前になります」と話してくれた。
 学生時代は陸上競技(110mハードル走)で鳴らしたが、大学時代に出会ったDJやターンテーブルの格好良さに衝撃を受けDJの道へ。父の米作りを手伝いつつ技術を磨き、2006年には世界最大のDJ大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2006』で優勝して世界チャンピオンにもなった。そんな駒形さんだが、子供が生まれたことをきっかけに食への関心を持つようになり、家族に安心安全な米を食べさせたいという思いから、本気で農業に取り組むようになった。
「正直に言って、最初は農業をなめていました。コンテストがあると聞いて出品してみましたが、箸にも棒にも掛かりませんでした。南魚沼の米なら美味しいに違いない、という思い違いがあったのです」

紙マルチ田植機+自家製肥料で高付加価値米作りに挑む

 この衝撃の落選を機に、駒形さんは人が変わったように米作りに没頭した。生来の負けず嫌いな性格が幸いしたのだろう。日本各地の篤農家に米作りの秘訣を聞いて回った、というから、その熱の入れようが想像できる。特に、駒形さんが師と仰ぐ、同じ南魚沼の『関農園』の関智晴さんのアドバイスが有効だったのだとか。こうした苦労の末に取り組み始めたのが、自家製のぼかし肥料である。
 「米の味を決めるのは肥料です。もちろん水や土、気温や寒暖差、水管理といった様々な要素が関係しますが、美味しい米を作ろうと考えたら肥料にこだわる、というのが、私が出した結論です」
 この自家製のぼかし肥料と、安全安心のために栽培期間中に農薬・化学肥料を使用しない栽培や、農薬・化学肥料を産地基準よりも少なくする特別栽培方法により、『こまがた農園』の米は上述のような美味しい、そして安心安全な米を作れるようになった。
 『こまがた農園』が管理する水田は14ha。このうち1割では農薬・化学肥料を使わずに栽培している。これが『こまがた農園』の看板商品となっている『こまがた家のお米 農薬・化学肥料不使用栽培米』であり、5㎏1万400円と極めて高価だが、これが実に良く売れるという。そこで駒形さんは、農薬・化学肥料を使わない米の面積を増やすべく、新たな挑戦を始めた。それが三菱農業機械の独自技術が投入された紙マルチ田植機の導入だ。紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで、田面への日光の通過を遮断して田植えから約40~50日間の間、雑草の生長を抑制する、無農薬栽培に貢献するために開発された三菱農業機械独自の田植機である。
「農薬を使わない、あるいは極力使わない栽培方法は、雑草との戦いです。乗用タイプの草刈機を試してみたこともありますが、それでは除草はできでも茎数を削ってしまうことが分かりました。だからと言って、真夏に広い面積を手作業で除草するのは本当に大変です。実は、ウチはスイカも栽培しているので、夏はそちらに人も労力も掛かり切りになります。ですので、どうしても雑草対策を効率化しなくてはならなかったのです。どうしようかと悩んでいた昨春、友人でもある関智晴さんが『紙マルチ田植機』を新車に買い替えることを聞きつけて、使用していた機械を中古で譲ってもらいました」
 取材日は、ちょうど駒形さんは田植作業を行っていたが「今年で2年目なので、もう紙マルチの補充作業にも慣れました。紙マルチ田植機は、上手く張ることができれば雑草を確実に抑えることができます。今年は昨年使った紙マルチと同じものと、より厚手の紙のものとを比較しています。より効果的な方法を見つけたいです」と意欲的だ。

付加価値のあるお米をより高い値段で買っていただくための工夫

製米工程で出た米ぬかに、魚粕、蟹ガラ、昆布などを混ぜて1年以上寝かして自家で生産している『こまがた農園』のぼかし肥料。これが、美味しい、安心安全な米作りのベースとなっている。

 自家製のぼかし肥料と紙マルチ田植機を活用して育てられた『こまがた農園』の美味しく、安心安全な米は、その8割が自社オンラインショップ等を通じた直販で販売されている。
「魚沼産とは言え、米の値段は全国的に下がり続けています。父の代には一俵3万2,000円という時期もありましたから、沢山作れば儲かる、という感覚だったのだと思います。ところが今は1万7,000円程度です。全国平均と比較すればまだ高値ではありますが、従来通りの考えでは、資材や肥料コストが上がっている現在、この規模ではまったく採算が合いません」
 ここで駒形さんの付加価値のある米作りが、大きな意味を持ってくる。自分が作ったお米の価値を消費者に伝え、その価値観に共感していただければ、価値に見合った価格で売ることができる、と考えた。そこで駒形さんは、米のブランド化に着手した。オンラインショップの制作や写真撮影、商品パッケージデザインにもこだわってプロに依頼した。また、日々の作業の様子や自社のこだわりの詰まった日常をSNSでも発信している。
「この直販メインの体制を構築できたのは、コンテストの効果が大きかったと思います。いくら美味しいとか安全だと言っても、人は簡単には信用してくれません。第三者により高く評価されたことで、一気に『こまがた農園』の米に対する信頼や認知度が高まりました」
 売り先の多様化にも積極的だ。自社オンラインショップのほか、産直ECサイトやふるさと納税返礼品も活用している。販売チャンネルを多様化することで、一般消費者の方々とのコミュニケーションも増え、お客様同士の口コミもブランド化を後押ししている。
 コンテストで高く評価されるために、手間暇を惜しまずに自家製のぼかし肥料を開発。さらに、付加価値のある美味しい米作りを効率化するために、紙マルチ田植機を導入した。その紙マルチ田植機との出会いを足掛かりに、それを最大限に活用して自社の強みやその価値観をマルチチャンネルで日々発信し続ける……これが『こまがた農園』の戦略だ。
 米価の下落に対応しようと、一部の水稲生産者は、大規模化・効率化を突き詰めている。一方で、農業にもSDGs(持続可能な農業)への対応が求められる昨今である。いわゆる〝一発肥料〟を原因とするマイクロプラスチック問題が、世間の注目を浴びつつある。誰しもが容易に真似することはできないだろうが、『こまがた農園』の農薬や化学肥料を極力減らすことで持続可能性を高めつつ自社も繁栄しようという戦略は、大規模化・効率化とは異なる、時代の潮流に叶った優れた生き残り戦略である。
 新型コロナウイルス感染拡大の終息の兆しが少し見えつつあるが、燃料や農業資材の価格高騰や様々な商品の値上げ発表が続く昨今、消費の二極化が進む世の中のニーズを上手く捉え、駒形さんは「紙マルチ田植機=高収益ビジネスモデル」を見事に成立させている好事例と言えよう。

文・川島 礼二郎

  • 『第23回米・食味分析鑑定コンクール国際大会』で5141検体中の9位で予選を通過し特別優秀賞を受賞。令和4年には、トップシェフやバイヤーにより審査される『料理王国100選』にてトップ10に選出され、この品評会における最高の賞である優秀賞を受賞した。この受賞米と同じ栽培方法で育てられた『栽培期間中 化学肥料不使用・農薬は除草剤1回のみ』は『こまがた農園』のオンラインショップで販売している。

  • 『こまがた農園』の水田は、八海山をはじめとする越後三山に囲まれた山間部に位置している。そのため昼夜の寒暖差が大きく、また谷川岳を水源とする魚野川のミネラル豊富な雪解け水の効果もあり、上品な香りと甘さが際立つ美味しい米が獲れる。

  • 製米工程で出た米ぬかに、魚粕、蟹ガラ、昆布などを混ぜて1年以上寝かして自家で生産している『こまがた農園』のぼかし肥料。これが、美味しい、安心安全な米作りのベースとなっている。

  • 今年で発売開始から25周年を迎えた、三菱農業機械の『紙マルチ田植機』。田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで雑草を抑制する。農薬を極力使わない=安心安全な米作りをサポートする田植機である。

  • 南魚沼で付加価値のある米作りに挑戦している駒形さん。紙マルチ田植機の導入から2年目となる今年は、紙マルチを使用する区画の面積を昨年の3倍に広げた。「規模ではなく、次世代に引き継げる米作りを追求して行きたい」と語ってくれた。

【取材協力】 こまがた農園

https://www.komagatanouen.jp/

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再生紙マルチ田植機は、代かき後の田面に植付部直前から再生紙を敷設し、紙を突き破りながら田植えを行ないます。敷設された紙が田面への日光の通過を遮断するため、雑草の生長を抑制し、田植後から約1ヶ月の間、除草剤を使わずに雑草の伸長・繁茂を抑えることができます。

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